今回私が目指したのはこの作品が中世騎士物語の舞台のようなUOの世界、或いは風景の一部として違和感無く溶け込んでいるかということです。そして7×7の最小のスペースの中で如何にそれが発揮できるかに挑戦しました。 こんな小さな小さな建物にも、其処に生活する名も無きNPC達にも、それらが皆このUOの世界の一部である限り、語られるべき「歴史」や「物語」が必ずある・・・私はそう信じています。したがって詳細解説も作品そのものの解説よりは寧ろその建物や其処に生活する人々のバックストーリーに重きが置かれています。ウルティママニアならば「ニヤリ」とするような部分も多分あると思います。
かつてはその道を極め名工の聞も高かった、しかし今ではその名声を知る者は殆どいない4人の老いた職人ジョーンジー、オーウェン、ヘンリー、ピートがこのミノックの街外れの廃屋同然の建物に小さな工房を構えたのはいつの頃だったでしょうか?ちょうどこの建物が主を失い抜け殻同然であったのと同じように、彼らもまた大切な様々な物を失い此処にやってきたようです。「Needful Things」という店名はジョーンジーの発案によるものです。「Needful Things」は和訳すれば「必要なのもの」ということなのですが、ジョーンジー曰く自分たちの拵えたものが、それを使う人々にとって愛すべき「必要なもの」であってほしいという職人の究極の願いを言葉にしたものだということです。しかしどうやらそれだけではなく、此処から再出発するに至った4人が、ミノックの象徴である「献身」の徳を実践すること、つまり誰かの役に立つということを通して、それぞれが失ってしまった「必要なもの」を取り戻したいという秘かな願いが込められているようです・・・ ちなみに、この建物はミノックの南側に位置するミノック自警団の守衛所、つまりガードポストであったものです。かつては街へのモンスターや不審者の侵入を監視するとともに、南方のコーブからの街道、或いは南東のヴェスパーやムーンゲートからの往来を見守る、いわばミノックの南の守りの要として機能していました。しかしフェルッカの過疎化によって自警団も縮小し、いつしかこの建物も使われなくなり廃墟同然となっていました。ガードポストとして機能していた頃は、1階は厩舎、2階は守衛の待機所、屋上は物見櫓であったようです。 まず1階を覗いてみましょう。手前で樽用の材木のカンナがけをしているのはピートです。4人の中では最も年若く老人と呼ぶにはまだ少し早そうです。彼はユー随一の腕利きの樽職人として、エンパスアビー醸造所で使われるワイン樽の製造を一手に引き受けていました。ところがミーアの腐敗の術でユーの街の沼地化とともに引き起こされた疫禍で長年連れ添った妻と愛娘を失い、生き甲斐を失い鑿を折っていたところを、大工のジョーンジー老人に請われこの工房にやってきました。再び鑿を持つその手に職人としての誇りや生き甲斐を取り戻しつつあるようです。彼の「Needful Things」もまた此処にあったようです。 その奥で作りかけの石像に囲まれて、腕を組んで唸っているのは「石頭のヘンリー」です。今にも動き出しそうな彫像の精巧緻密な彫り技とはうらはらな剛直な性分で、彼の巌の如き職人気質は、フェローシップに依頼されて作ったバトリンの彫像を納めたとき、当のバトリンの不遜な態度に腹を立て、彼の眼前でその彫像を叩き割った逸話にも如実に現れています。己の技よりも名によって群がる貴族達に業を煮やし、ますます意固地になり、槌よりも酒瓶を手にする日々が増え、いつしかミノックの酒場The Barnacle(フジツボ亭)で管を巻くのが毎日の日課になっていました。オーウェン翁に誘われ此処に来てから、右手に握る物が酒瓶から再び槌に変わっても、相変わらずの頑固ぶりですが、酒場でずぶ酔いしていた頃には失っていた快活さが戻ってきたようです。規則正しい鑿音とともに聞こえてくる調子っぱずれな鼻歌に彼なりの「Needful Things」が見つかったことが感じられます。 では一度外に出て、階段を上り2階の扉を開けてみましょう。この部屋は時計職人のオーウェン翁の工房のようですが、彼は休憩中なのか居ませんね。ご覧なさい!彼の几帳面な性格は綺麗に整頓された道具棚にも現れています。そしてそんな性格を裏打ちするかのように、彼の作る時計は殆ど狂うことがなく、一昔前のヴェスパー地方の流行り言葉で「オーウェン爺さんの時計みてぇだ!」と言えば「間違いがない」「正確だ」という意味を表すほどでした。またその卓越した技術と温厚な人柄から細工師達の人望も厚く、長年ミノックの細工師ギルドのギルド長を務めていました。しかしその彼が突然ギルド長の職を辞し隠遁生活に入ったのは、ブリタニアへのゴーレムの侵攻があったころ噂のあった、近衛軍の機械師団の立ち上げに協力を拒んだ為とか風説は様々ですが確かなことは不明です。 さて最後に屋上に出てみましょう長い月日と風雨にさらされて、かつては美しかった物見櫓のアーチも崩れ蔦が茂っています。しかし老人達はお構いないようですね。正面には物見櫓であったころには危急を告げる半鐘が吊されていましたが、今では道行く旅人の道標となるよう大きなランプが老人達の手によって掲げられています。 奥の小さな植木棚の前には・・・ああ、オーウェン翁はここにいました。日光浴がてら大好きな植木いじりに精が出ているようです。今の工房は、ギルド長を努めていた頃の大工房とは比ぶべくもないほど小さなものですが、花を世話する眼鏡の奥には、街の中枢にあって多忙を極めていた頃には見られなかった穏やかな輝きが見て取れます。こんな「Needful Things」もあるのでしょうか・・・そして手前で壊れた椅子の修理をしているのがジョーンジー老人です。ユー産のイチイ材を使った彼の作る家具は、最高級の調度品、否、芸術品としての呼び声も高く、王都ブリテンをはじめ、マジンシア、ニュジェルムなどの豪商の間では「ジョーンジーの家具が屋敷に揃っていなければ真の富豪とはいえない」とさえ言われたほどです。しかしながら本意に反して、自分の拵えた家具が、金持ちの虚栄を満たすための「飾り」にしか用いられていないことに失望したのか、あんなに流行っていた店を畳み、安楽椅子で海泡石のパイプを燻らす日々が続いていました。「Needful Things」を呼びかけたのは実は彼なのですが、此処に来てからは専ら街の人々が日々の生活に使う「必需品」、つまり「Needful Things」を手掛けています。今修理しているのも、以前に肉屋のThe Slaughtered Cowの大将に作ってやった椅子ですが、壊れるぐらいまで長く愛用してもらっていたのがとても嬉しいのか、ベーコン1ブロックという僅かな工賃ですが、かなり気合いの入った仕事ぶりです。バスケットに入っているのは街の大工が捨てた端材ですが、このようなものでも彼の手にかかれば立派な材料となってしまいます。自分の作ったものが、そして自分自身が誰かのための「Needful Things」であること、これが彼の求めていた「Needful Things」なのかもしれません・・・
chiyo @倭国 さん 落ち着いた室内で、黙々と仕事に取り組む職人の雰囲気がよく伝わってきます。カスタマイズパーツと組み合わせた、掘り出し途中の石像が面白いですね。
shiroi @出雲 さん 7×7で階段使用って難しいと思いますがうまく使ってますね。狭さまったく感じません。無駄を省きつつ、装飾的な建築、という相反するカスタマイズを見せてもらいました。クラシックハウスサイズの土台でよくぞ!という感じです。
Schweigen @倭国 さん 思わず「ニヤリ」。7×7とは思えない、重みのある建物。そして、そこに生活する四人の職人の語られることの無い物語。そこから見え隠れする「歴史」と「世界」。美味く言葉にあらわせないけれど、この世界に散らばる冒険者、職人達も、それぞれの語られることの無い物語を持っている、という忘れてかけていたことを思い出しました。
さくれ @日本以外 さん まさに職人の工房といった印象を受けました。静かに、そしてひたむきに自分の作品を作っていく姿があり、NPCに対して敬意を持てたのはこれが初めてかもしれません(笑)。バックストーリーが作品をより面白くしてくれました。ありがとう。
rin-go @瑞穂 さん 職人がみなうしろを向いている・・・。作業に没頭しているように見えて、「なるほど」と思いました。
hiro @飛鳥 さん 1階から3階まで、生産系の部屋が連なってますね〜。部屋の雰囲気が、そこで働く職人さんの腕の良さを物語っているように見えて、とても良い感じだと思います。
あこ @倭国 さん ストーリーがあり、人が活動している空気があり、それを最小の7*7サイズで見事に表現されたところが素晴しいです。
La Vie en Rose @瑞穂 さん 練りこまれたバックストーリーから、そのまま一場面を切り出したような仕上がりですね。職人さんたちがみんな作業中の背中を見せるように配置されているのも、彼らの仕事ぶりをこっそり後ろから見せてもらっているような演出を感じさせてくれます。
ぽんぴん @出雲 さん 詳細解説文の威力がすごい。読む前と読んだ後で見ると、見る側もきっちり見なければ、という気になります。道具の細かい配置のしかたとか、地味めな職人達の空間ながら、すごいなぁと思いました。
にょにょ @飛鳥 さん 7×7でもこれだけ出来るんだなぁと言う希望が持てました!
merry @大和 さん 小さな空間を整理して、とても素敵な物語を作っているとおもいます。むだをつくらず配置してあるのでおじいちゃん達がリアルにみえてステキです〜。
Wolffang @北斗 さん たしかに解説じゃなくて小説ですな(^^;楽しく読ませていただきました。いや実際、このバックストーリーがなくても、雰囲気やテーマはしっかり読み取れる作品になっていると思います。
作品コンセプト
今回私が目指したのはこの作品が中世騎士物語の舞台のようなUOの世界、或いは風景の一部として違和感無く溶け込んでいるかということです。そして7×7の最小のスペースの中で如何にそれが発揮できるかに挑戦しました。
こんな小さな小さな建物にも、其処に生活する名も無きNPC達にも、それらが皆このUOの世界の一部である限り、語られるべき「歴史」や「物語」が必ずある・・・私はそう信じています。したがって詳細解説も作品そのものの解説よりは寧ろその建物や其処に生活する人々のバックストーリーに重きが置かれています。ウルティママニアならば「ニヤリ」とするような部分も多分あると思います。
詳細解説文
かつてはその道を極め名工の聞も高かった、しかし今ではその名声を知る者は殆どいない4人の老いた職人ジョーンジー、オーウェン、ヘンリー、ピートがこのミノックの街外れの廃屋同然の建物に小さな工房を構えたのはいつの頃だったでしょうか?ちょうどこの建物が主を失い抜け殻同然であったのと同じように、彼らもまた大切な様々な物を失い此処にやってきたようです。「Needful Things」という店名はジョーンジーの発案によるものです。「Needful Things」は和訳すれば「必要なのもの」ということなのですが、ジョーンジー曰く自分たちの拵えたものが、それを使う人々にとって愛すべき「必要なもの」であってほしいという職人の究極の願いを言葉にしたものだということです。しかしどうやらそれだけではなく、此処から再出発するに至った4人が、ミノックの象徴である「献身」の徳を実践すること、つまり誰かの役に立つということを通して、それぞれが失ってしまった「必要なもの」を取り戻したいという秘かな願いが込められているようです・・・
ちなみに、この建物はミノックの南側に位置するミノック自警団の守衛所、つまりガードポストであったものです。かつては街へのモンスターや不審者の侵入を監視するとともに、南方のコーブからの街道、或いは南東のヴェスパーやムーンゲートからの往来を見守る、いわばミノックの南の守りの要として機能していました。しかしフェルッカの過疎化によって自警団も縮小し、いつしかこの建物も使われなくなり廃墟同然となっていました。ガードポストとして機能していた頃は、1階は厩舎、2階は守衛の待機所、屋上は物見櫓であったようです。
まず1階を覗いてみましょう。手前で樽用の材木のカンナがけをしているのはピートです。4人の中では最も年若く老人と呼ぶにはまだ少し早そうです。彼はユー随一の腕利きの樽職人として、エンパスアビー醸造所で使われるワイン樽の製造を一手に引き受けていました。ところがミーアの腐敗の術でユーの街の沼地化とともに引き起こされた疫禍で長年連れ添った妻と愛娘を失い、生き甲斐を失い鑿を折っていたところを、大工のジョーンジー老人に請われこの工房にやってきました。再び鑿を持つその手に職人としての誇りや生き甲斐を取り戻しつつあるようです。彼の「Needful Things」もまた此処にあったようです。
その奥で作りかけの石像に囲まれて、腕を組んで唸っているのは「石頭のヘンリー」です。今にも動き出しそうな彫像の精巧緻密な彫り技とはうらはらな剛直な性分で、彼の巌の如き職人気質は、フェローシップに依頼されて作ったバトリンの彫像を納めたとき、当のバトリンの不遜な態度に腹を立て、彼の眼前でその彫像を叩き割った逸話にも如実に現れています。己の技よりも名によって群がる貴族達に業を煮やし、ますます意固地になり、槌よりも酒瓶を手にする日々が増え、いつしかミノックの酒場The Barnacle(フジツボ亭)で管を巻くのが毎日の日課になっていました。オーウェン翁に誘われ此処に来てから、右手に握る物が酒瓶から再び槌に変わっても、相変わらずの頑固ぶりですが、酒場でずぶ酔いしていた頃には失っていた快活さが戻ってきたようです。規則正しい鑿音とともに聞こえてくる調子っぱずれな鼻歌に彼なりの「Needful Things」が見つかったことが感じられます。
では一度外に出て、階段を上り2階の扉を開けてみましょう。この部屋は時計職人のオーウェン翁の工房のようですが、彼は休憩中なのか居ませんね。ご覧なさい!彼の几帳面な性格は綺麗に整頓された道具棚にも現れています。そしてそんな性格を裏打ちするかのように、彼の作る時計は殆ど狂うことがなく、一昔前のヴェスパー地方の流行り言葉で「オーウェン爺さんの時計みてぇだ!」と言えば「間違いがない」「正確だ」という意味を表すほどでした。またその卓越した技術と温厚な人柄から細工師達の人望も厚く、長年ミノックの細工師ギルドのギルド長を務めていました。しかしその彼が突然ギルド長の職を辞し隠遁生活に入ったのは、ブリタニアへのゴーレムの侵攻があったころ噂のあった、近衛軍の機械師団の立ち上げに協力を拒んだ為とか風説は様々ですが確かなことは不明です。
さて最後に屋上に出てみましょう長い月日と風雨にさらされて、かつては美しかった物見櫓のアーチも崩れ蔦が茂っています。しかし老人達はお構いないようですね。正面には物見櫓であったころには危急を告げる半鐘が吊されていましたが、今では道行く旅人の道標となるよう大きなランプが老人達の手によって掲げられています。
奥の小さな植木棚の前には・・・ああ、オーウェン翁はここにいました。日光浴がてら大好きな植木いじりに精が出ているようです。今の工房は、ギルド長を努めていた頃の大工房とは比ぶべくもないほど小さなものですが、花を世話する眼鏡の奥には、街の中枢にあって多忙を極めていた頃には見られなかった穏やかな輝きが見て取れます。こんな「Needful Things」もあるのでしょうか・・・
そして手前で壊れた椅子の修理をしているのがジョーンジー老人です。ユー産のイチイ材を使った彼の作る家具は、最高級の調度品、否、芸術品としての呼び声も高く、王都ブリテンをはじめ、マジンシア、ニュジェルムなどの豪商の間では「ジョーンジーの家具が屋敷に揃っていなければ真の富豪とはいえない」とさえ言われたほどです。しかしながら本意に反して、自分の拵えた家具が、金持ちの虚栄を満たすための「飾り」にしか用いられていないことに失望したのか、あんなに流行っていた店を畳み、安楽椅子で海泡石のパイプを燻らす日々が続いていました。「Needful Things」を呼びかけたのは実は彼なのですが、此処に来てからは専ら街の人々が日々の生活に使う「必需品」、つまり「Needful Things」を手掛けています。今修理しているのも、以前に肉屋のThe Slaughtered Cowの大将に作ってやった椅子ですが、壊れるぐらいまで長く愛用してもらっていたのがとても嬉しいのか、ベーコン1ブロックという僅かな工賃ですが、かなり気合いの入った仕事ぶりです。バスケットに入っているのは街の大工が捨てた端材ですが、このようなものでも彼の手にかかれば立派な材料となってしまいます。自分の作ったものが、そして自分自身が誰かのための「Needful Things」であること、これが彼の求めていた「Needful Things」なのかもしれません・・・
作者へのメッセージ(抜粋)