住宅地の片隅に、漆喰の白壁の小さな家がありました。家と同じく小さな庭には色とりどりの花が咲いており、そのどれもがきちんと手入れされています。住んでいるのは妙齢の女性が一人。おしゃべり好きな彼女らしく、庭を眺めながらのお茶会の準備はいつでも完璧です。手作りのクッキーや抹茶ケーキはもちろん、奥のキッチンには長居をする友人に振舞う夕食のスープも煮えていました。愛らしい家に住む、明るい彼女。しかし、彼女の本当の姿を知るとき、あなたは無事にあの家から出ることが出来るでしょうか……?
『Marlinの手記』わたしがこの地下牢に捕らえられて、もうどのくらい経つのだろうか?光の全く差し込まないこの場所では、日付を知るどころか昼夜の区別さえままならない。鉄格子の向こうに見えるのは恐ろしい拷問道具と不気味な実験室、斧を携えた見張りの男くらいだ。この家の主である女アサシンは、捕らえたわたしを無視して毒の研究にご執心である。ねじくれた幹の毒の木から採れる果実や、獣の死体に生える緑の薔薇、人間の臓物やその他、禍禍しい材料を使って、日々強力な毒の精製に勤しんでいるのだ。もしかしたらあの研究が一区切りついたとき、わたしは実験台に使われるのだろうか!?きっと浸された毒で曇った刃を突き立てられ、苦しみぬいて死ぬことになるのだ!ああ!考えるだけで頭がおかしくなりそうだ!そうだ、おかしいと言えば…。見張りの男自体も、奇妙だ。彼は血糊のついた拷問具を皮で磨くときや、焼き鏝の温度を確かめるとき以外、食事もしなければ眠りもせずに、哀れな犠牲者を吊るすための張り付け台の前で、ただひたすらに立ち尽くしている。彼のどす黒い肌やどろりとした目を見るだけで、血が凍りそうな恐怖に駆られるのはなぜだろう。まさか、彼は…そうだ、きっとそうだ。首にぐるりとついた手術痕から血が染み出しているのも、骨ばって蝋のように白い手も、眠らないことも食べないことも、これですべて説明がつく…。もう、これ以上考えることはよそう。考えたところで扉は開かないし、足首に繋がれた鉄球が外れるわけでもない。見張りの男も居眠りなどあり得ない。今はただ、前の犠牲者の白骨を眺めながら、ここから無事に出られる夢でも見ようか。
作品コンセプト
住宅地の片隅に、漆喰の白壁の小さな家がありました。
家と同じく小さな庭には色とりどりの花が咲いており、そのどれもがきちんと手入れされています。
住んでいるのは妙齢の女性が一人。
おしゃべり好きな彼女らしく、庭を眺めながらのお茶会の準備はいつでも完璧です。
手作りのクッキーや抹茶ケーキはもちろん、奥のキッチンには長居をする友人に振舞う夕食のスープも煮えていました。
愛らしい家に住む、明るい彼女。
しかし、彼女の本当の姿を知るとき、あなたは無事にあの家から出ることが出来るでしょうか……?
詳細解説文
『Marlinの手記』
わたしがこの地下牢に捕らえられて、もうどのくらい経つのだろうか?
光の全く差し込まないこの場所では、日付を知るどころか昼夜の区別さえままならない。
鉄格子の向こうに見えるのは恐ろしい拷問道具と不気味な実験室、斧を携えた見張りの男くらいだ。
この家の主である女アサシンは、捕らえたわたしを無視して毒の研究にご執心である。
ねじくれた幹の毒の木から採れる果実や、獣の死体に生える緑の薔薇、人間の臓物やその他、禍禍しい材料を使って、日々強力な毒の精製に勤しんでいるのだ。
もしかしたらあの研究が一区切りついたとき、わたしは実験台に使われるのだろうか!?
きっと浸された毒で曇った刃を突き立てられ、苦しみぬいて死ぬことになるのだ!
ああ!考えるだけで頭がおかしくなりそうだ!
そうだ、おかしいと言えば…。
見張りの男自体も、奇妙だ。
彼は血糊のついた拷問具を皮で磨くときや、焼き鏝の温度を確かめるとき以外、食事もしなければ眠りもせずに、哀れな犠牲者を吊るすための張り付け台の前で、ただひたすらに立ち尽くしている。
彼のどす黒い肌やどろりとした目を見るだけで、血が凍りそうな恐怖に駆られるのはなぜだろう。
まさか、彼は…
そうだ、きっとそうだ。
首にぐるりとついた手術痕から血が染み出しているのも、骨ばって蝋のように白い手も、眠らないことも食べないことも、これですべて説明がつく…。
もう、これ以上考えることはよそう。
考えたところで扉は開かないし、足首に繋がれた鉄球が外れるわけでもない。見張りの男も居眠りなどあり得ない。
今はただ、前の犠牲者の白骨を眺めながら、ここから無事に出られる夢でも見ようか。